「源氏物語 藤袴」(紫式部)

読みどころは「三つの会談」

「源氏物語 藤袴」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

尚侍として
帝に仕えることになった玉鬘。
しかし源氏の養女秋好中宮や
実妹の弘徽殿の女御と
寵愛を競うことに
なりはしないかと、玉鬘は悩む。
そんな折、
源氏の使いとして訪れた夕霧が、
藤袴を差し出し、
恋情を訴える歌を詠むが…。

源氏物語第三十帖「藤袴」。
大きな事件は描かれていないのですが、
読みどころは「三つの会談」でしょう。

本帖の読みどころ①玉鬘・夕霧会談
それまで異母姉だと思っていた玉鬘と、
実は血のつながりが
ないとわかった夕霧は、
自分の恋心を藤袴の花(蘭の一種)と
歌に寄せて打ち明けます。
玉鬘の返事は、
「つづぬるにはるけき野辺の露ならば
 うす紫やかごとならまし、
 かやうにて聞こゆるより、
 深きゆゑはいかが」

このように親しく
会話しているのですから、
それより深い因縁など
あるのでしょうか、と
軽くかわしているのです。
玉鬘の方が圧倒的に上手です。

仕方ありません。
夕霧このとき十六歳に対して
玉鬘二十三歳、
高校一年生の男子が
新社会人となった女性を
口説いているようなものです。
相手にされるはずがありません。
また、玉鬘は幾たびの窮地を乗り越えた
人生経験豊富な女性です。
純真で堅物な夕霧に、
太刀打ちできるはずはないのです。

本帖の読みどころ②源氏・夕霧会談
それまで源氏に対して
従順だった夕霧が、
ここでは打って変わって
図太さをみせています。
なんと源氏に対して
心理戦を挑んでいるのです。
「世間の噂」「内大臣の推量」と
ことわった上で、
「宮仕えは表向きで、
実質源氏が玉鬘を愛人に
しようとしている」と、
鎌をかけるのです。
源氏は笑って否定しますが、
図星を指されて
玉鬘を諦める決意をするのですから、
この勝負、夕霧の勝利です。

本帖の読みどころ③玉鬘・柏木会談
夕霧とは逆に、
柏木は懸想をしていた相手が
実の姉だとわかり、
姉弟としての関係に切り替えます。
お互いに自然な形で
移行することができ、
こちらは引き分けでしょうか
(もっともこの会談は
駆け引きでも何でもないのですが)。

源氏物語は「少女」あたりまでの帖は、
つながりがありながらも
一話完結的な作品構成でしたが、
「玉鬘」以降のいわゆる「玉鬘十帖」は、
十帖で一つの作品のような
構成となっています。
そのため一つの帖を取り上げると、
どうしても起伏の小さな
展開となっているのですが、
それでも読みどころは豊富です。
次帖はいよいよ「玉鬘十帖」の終幕です。
どうなる玉鬘!?

(2020.8.8)

フランクさんによる写真ACからの写真

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